僕はイタリアンピッツァがすごい好きなんですけど（特にマルゲリータ）、なんで好きかというと、すげえ熱いからっていうのがまずあって、400度の釜の中で一気に焼かれて膨れ上がった生地とマグマみたいなトマトソースってエネルギーそのものって感じがして、熱のパワーをそのまま食ってるみたいな快感があるんです。

別府で初めてゆっくりできたのは去年の12月、その時〈鶴の湯〉っていう谷間に湧くワイルド温泉に入った。僕が入る前、脱衣所は地元のおじちゃんたちでワイワイしていて、「東京から来たの？今、湯加減バッチリだよ、いいとこに来たね！」なんて話しかけてくれた。ウキウキ気分でザっ！と一気に湯に入るとものすんごーく熱い！もう本当に信じられないくらい熱くて、温度計見たらびっくり46度！ただでさえのぼせやすい僕は一瞬で身体中真っ赤。3分ともたず一旦湯を出た。

冬の冷たい空気。湯気が出る肌。すげえ気持ちいい。

そして思った。「俺は今、ピザだな」と。「俺は今、別府の地下を通り熱せられた温泉のエネルギーをガッと溜め込んだ〝パワーそのもの〟だぜ」と。

それまでは、リフレッシュとか体を休めるために温泉に入って、ふにゃふにゃになって「さいこ～」なんつってビール飲むのが僕の「温泉」だった。しかし別府でピザになった時、僕の温泉感は塗り替えられた。温泉って地面の力を分けてもらう場所なんだ。まじのパワースポット。

この夏、また別府に来た。いくつかの温泉をめぐって、僕はもう一度噛みしめるようにあっつい湯に浸かり、力が染み込んでくるのを感じた。きてるきてる。風の音を聞いて、雲が流れるのを見て、自分が自然の一部になったような感覚がした。この感じ久しぶりだなと思った。あのおじちゃんたちの無邪気さもわかった気がした。

写真：熊谷直子

PROFILE　夏目知幸／1985年生まれ、千葉県市川市出身。東京を拠点に活動するロック・バンド、シャムキャッツのボーカル&ギター。2016年から毎年アジアツアーを行い、これまでに韓国・台湾・中国・香港・タイにてライブを開催。11月21日に、ニュー・アルバム『Virgin Graffiti』を発売。http://siamesecats.jp/